ハイレゾで聴くビーチ・ボーイズ "Pet Sounds"
Pet Sounds PKG

ビーチ・ボーイズ「Pet Sounds」Stereo 96kHz/24bitをダウンロードした。利用したのはHDtracks。フォーマットは非圧縮のAIFF。LP1枚分(40分弱)のファイルサイズは1.3GBなのでダウンロードは7分で完了。残念なことに決済時の操作ミスで10%割引に失敗。あとで表示価格どおりの金額$17.89がPayPalで引き落とされる。

<Number of Releases>
「Pet Sounds」はこれまでにで76種類ものリリースがあったと言う
(2013年1月現在[Discogs database])。ざっと列挙すると、
オリジナル・モノラルLP(1966年)
LPリイシュー('70年代、'80年代、'90年代)
モノラルCD(1989年日本)
モノラルCD(1989年米国)
ステレオCD(1996年)
ペット・サウンズ・セッションズ(1997年)
DCCゴールドCD(1993年)
HDCDステレオCD(2001年)
HDCDモノラルCD(2002年)
5.1サラウンドDVD-A(2003年)
40thアニヴァーサリー・エディション(2006年)
モービルフィテリティSACD(2012年)
最新モノラル/ステレオCD(2012年)
HD-Tracksハイレゾダウンロード96/24・192/24(2012年)

ハイレゾは『CD未購入』に限って購入のつもりでいた。我が家のライブラリーにも「Pet Sounds」モノラルCDはある。1989年に東芝EMIが「パストマスターズ」シリーズでビーチ・ボーイズLPをCD化した際に「Pet Sounds」を含む全16枚を大人買いしたからだ。
今回ハイレゾ購入に踏み切ったのは、ステレオ・ミックスをゼヒ聴いてみたかったこと。先に購入していた「Smile Sessions」88.2kHz/24bitの音質、内容が大変良かったことも大きい。制作時期が重複している2作品を高音質で聴き比べてみたかったことも理由だ。(「Smile」に収録の「Good Vibrations」は「Pet Sounds」セッション時の録音。)

Brian Wilson at Studio
Brian Wilson during "Pet Sounds" Sessions

ビーチボーイズの過去のカタログは次々とステレオ化されているが、疑似ステレオや調整卓のパンでモノ・トラックを左右に振るといった安易な方法とは根本的に異なる。「Smile Sessions」に匹敵する理想に近いプロセスで作業が行われている。

<New Remix>
1) オリジナル・マスターはモノラルのため、マルチトラックに遡ってリミックスが行われた。
2) ステレオミックスのために、複数のワークテーブからモノミックス以前のテイクを抽出し完全分離のマルチトラックを作る作業が行われた。
3)「Pet Sounds」のマルチトラック(1インチ8tr、1/2インチ4tr)、ワークテープ(1/2インチ4tr)の殆ど(96%以上)が現存してる。
4) しかるべきエンジニアが作業を行った。(グループのリイシュー全てに関わるマーク・リネットがリミックスを担当。)
5) オリジナル作品の制作に携わったミュージシャンまたはプロデューサーが作業に関わる。(ブライアン・ウイルソン自身が立ち会った。)
Session Tapes
Beach Boys Session Tapes
奇跡的だと思えるのは3)の『テープのほとんど(96%以上)が残存していた』ことだ。様々なステップで作られたテープが使用可能な状態で保たれている。殆ど信じられないことだ。この時代はマスター作りが終ると、マルチトラックや途中で作られるワークテープは処分され、廃棄されてしまう。アウトテイクが別ディスクに収められたり、ボーナストラックになるなんてことは夢にも考えられなかった時代だ。
1960年代半まではポップやロックンロールはティーンエイジャー向けの一過性の音楽と見なされ、マスター作りが終ると、使われた作業テープは処分されてまず残る事がない。ビーチボーイズやビートルズは例外中の例外なのだ。
Mark Linett
Mark Linett at Your Place or Mine

<Multi-Track Master and Stereo Mix>
「Pet Sounds」のステレオ化が初めて行われたのは1996年。困難だったのは『音が完全分離したマルチトラック・マスターを作る』作業だ。マルチトラックを作るのに用意されたのは2台の固定ヘッドデジタル録音機Sony PCM3324(いまでも多くのスタジオに置かれている高価なデジタルマルチ録音機)。ワークテープからモノミックス前のトラックの音を抽出し、手動で2台の録音機の速度を調整し、複数のテープの同期を取りながらマルチトラックを作りあげる方法がとられた。CD用のステレオミックスには完璧なソリューションだがハイレゾに流用するのにはサンプリング周波数:48kHz、量子化ビット:16bitというPCM3324の仕様は具合が悪い。

<Hi-Res Reissue>
ハイレゾ用は2003年の96kHz/24bitステレオミックスが使われた。
2003年の5.1chサラウンドDVD-Aの制作過程でこれまでと大きく異なるのはこのマルチトラック・マスターを作る部分だ。2003年にはDAW(Digital Audio Workstation)が利用可能になっている。アポジーのNativeToolsが使われた。
Native Tools(B)
<NativeTools>
Apogee AD-16 converters
Apogee DA-16 converters
RME 9652 PCI digital I/O card
DAW Soft Steinberg Nuendo
DVD-A用に96kHz/24bitのサンプリング周波数がセットされ、マルチトラックを作る工程が全てやり直された。ヴォーカルトラックとバッキングトラックの同期はDAWで容易になった。マルチマスターは一旦アナログのマルチレコーダーStuder 820にコピーされ、API 2488コンソールでトラックダウンが行われた。リミックス作業はマーク・リネットのYour Place or Mineスタジオが使われた。2chのステレオマスター(アナログ1/4インチ)が完成。このマスターからDVD-A用に96kHz/24bitステレオ、新CD用ステレオが作られた。なおサラウンド用のトラックダウンはステレオ用とは別に行われている。

<Pet Sounds Recording Sessions>
1965年7月12日 - 1966年4月13日
レコーディングはWestern Recordersの「Sloop John B」のセッションを皮切りに開始された。記録では1966年4月13日のCBSコロムビア・スタジオでの「I Just Wasn't Made For These Times」のヴォーカル・セッションで最後となっている。これと重複するように次作(Smile)からのシングルとなる「Good Vibrations」のセッションが1966年2月にGold Starスタジオでスタートしている。
Western Studio 1967
Western Recorders 1967年
演奏部分のバッキング・トラックの録音は、LAにあるWestern Recorders、Gold Starスタジオ、Sunset Soundのうちのどれかが使われた。この3スタジオの録音機はいづれもScullyの4トラック・レコーダー。空きトラックが必要になると複数トラックを1つに纏めて移し替えるバウンス(日本ではピンポンとも言う)の作業が日課の様になっていた。
ヴォーカルやコーラスの録音になると、LAで唯一8トラック・レコーダーを備えるCBSコロムビアのスタジオが使われた。4トラック1/2インチマスターを持ち込み、演奏部分のトラックをモノにミックスし、8トラック・レコーダーの1トラックにそれを取込み、残りの7トラックにヴォーカルやコーラスを録音していく方法がとられた。「Good Vibrations」、「Smile」のレコーディングでも同じ方法がとられている。
Brian with 4tr Recorder
Brian and Scully 280 4-track recorder

<Wrecking Crew>
フィル・スペクターを敬愛するブライアン・ウイルソンはウォール・オブ・サウンドを担うGold Starのハウス・ミュージシャンWrecking Crewのメンバーを積極的に起用した。ハリウッドを代表するセッション・ミュージシャンの演奏のエネルギーや音の美しさには勝てない。ちなみにGold Starで録られた「Pet Sounds」1曲目の「Wouldn't It Be Nice」のイントロの12弦ギターはバーニー・ケッセル。それに続くギターはグレン・キャンベル(どちらもコンソール直接入力)。Gold Starの黄金のエコーとともに素晴らしい効果を出している。

<Impression>
オリジナルのLPの頃から感じていたのだが「Pet Sounds」は音楽はユッタリしているのに音はカッチリして堅苦しいイメージがあった。それがステレオミックスではゆとりがあるソフトな感じが加わっている。ゆったりと空間ができているので、大変聴きやすい。
「Smile Sessions」の方になってしまうが、現代版の超リアルなモノミックスを「Good Vibrations」で聴くことができる。これは特筆すべきものだ。
 
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