英国の音 再びLS3/5A BBCモニターについて
Rogers LS3/5a
ROGERS LS3/5A/60th Anniversary Edition

最近、ブログに書いた記事『英国の音 LS3/5A BBCモニター』にコメントを頂いた。
骨子は「これは野外録音用のモニターで録音車のバンにものる小型スピーカーです、ただそれだけです。LS3/5はBBCモニターと言う名前だけが一人歩きしてるように思いますが・・?」というものだ。
LS3/5Aは1975年発売から製造完了となった2000年まで1モデルで一般市販を含めて10万ペア、合計20万台が売れたという。ペアで約15万円(当時)。コンパクトなサイズからは考えられない高価なSPだった。20万台のうち3500台はBBC内部での配布。BBCモニターの主力機種、LS5/8やLS5/9が局内でそれぞれ1000台前後であるのと比べると、LS3/5Aの数は圧倒的。過大評価の一言では済まされないものがある。なぜLS3/5AがBBCモニターの代名詞にまでなったのか、LS3/5Aが開発された時代の社会的背景も含めて整理してみたい。

【BBCモニターのグレード】
BBCモニターのグレードは次の2つに分かれている。
■ グレード1(LS5):この規格は「スタジオから送信機へ送る前の段階での音声チェックに使用する最高グレードのモニタースピーカー」とされている(音声には音楽も含まれる)。LS5/8、LS5/9、LS5/12aなど。主にスタジオでの生放送や録音のモニターに使われた。
■ グレード2(LS3):BBCでは「主にスピーチ・プログラムのチェック用に使われる。」とされている。LS3/5a、LS3/6など。
基本的には録音車などでのコンパクトモニターがLS3/5a。FM放送のような中継プログラムが本来のカテゴリー。80年代にかけて40局まで増えたBBCの地方局に多数のLS3/5Aが設置された。1970年代前半に登場したスピーカーの中で周波数バランスも定位感もそれまでのSPの常識を破った優れた特性を持っていた。
同じグレード2のLS3/6は、英国スペンドール社の第一号スピーカー BC1 のBBCでの規格名。「グレード2」だが中型のSP。フラッグシップのBBCモニター LS5/8の導入が始まる1970年代末まで、スタジオでの音楽チェックにも用いられていた。20cmベクストレン・ウーファーとセレッション製のトゥイーターHF1300にスーパーツィーターを組み合わせた3ウェイ。ベクストレンのBとセレッションのCをとってBCとなった。日本でも人気が高かったスペンドールBC2はBC1を一般市販化したモデル。

【ラジオ】
1960年より前、家庭の娯楽は音楽であり、それを供給したのは、主としてモノラルのLPレコードやSP盤だった。高価なレコード再生装置がない人は、ラジオで音楽を楽しんだ。英国では60年代に入ってもラジオの重要性は変わらなかった。家庭に真っ先に飛び込んできたビートルズは家庭用据え置きラジオからだった。ブロードキャスター、ピーター・バラカンさんはあるトークライブでビートルズの音楽が初めてラジオから聞こえてきた時は、「ドラムやベースの強い音にびっくりし、ぶっ飛んだ気分だった」と衝撃を語っている。
1973年に民間放送が許可されるまで英国のラジオは国営のBBCの独占だった。BBCでは市販のレコードはほとんどかからなかった。音楽家組合との協定でレコード演奏がBBC全局で一日5時間半に制限されていたからだ。使用料にかかわるためレコード演奏時間(ニードル・タイム)は厳重に管理された。家庭に現われたビートルズは、収録もBBCの流儀で生演奏をマイクで収録。もちろんモノラルの中波帯で放送していたのだ。(BBCセッションでは主にレコードの曲ではなくカバー曲などが演奏された。)
初期は金持ちの道楽だったHiFiが一気にダウンサイズされたのはFM放送の恩恵。60年代半ばにはロンドンを中心にステレオの実験放送が始まる。公共の電波で無制限に高音質音源を聴けるため、AM/FMチューナーにアンプのついた一体型の「レシーバー」といわれるものが主流となった。

テラスハウス
Terrace House    (London)
【英国の住宅事情】
ロンドンなどの大都会の住宅事情は日本にまけないほど厳しい。米国のようなゆったりしたリビングルームは労働者階級だけでなく中流階級の家庭でも望み薄。郊外でなければ一戸建ては難しく、マンションのような集合住宅か下記のような連棟スタイルが一般的。
■ セミディタッチハウス
一軒家をまん中で区切り2戸にした住宅。2階建+ロフト。1階にはキッチン、リビング・ダイニングルーム、2階はバスルームと3部屋が標準。
■ テラスハウス
日本の長屋のように、複数の戸建てが連続している建築。2階建で、1階にはキッチン、リビング・ダイニングルーム、2階にはバスルームと 2寝室が一般的。小さな裏庭がある。
当時の欧米ではHi-Fiスピーカーは高級コンソールか家具調スピーカーにしか実装されなかった。狭い放送ブースに置けるスピーカーがコンセプトのLS3/5aはこんな住宅事情にうってつけ。高価なため最初は売れ行きが悪かったが、テラスハウスの大きな出窓やマントルピース、本棚にも置ける小型の高性能スピーカーは、FMステレオが本放送になった1978年以降売り上げを伸ばし1980年代にはベストセラーの常連になった。

【AR-3の出現】
1960年代にアメリカのFM局でエアサスペション方式の密閉型ブックシェルフのAR-3が使われ出した。これは英国のBBCの小型スピーカーの開発にも大きな影響を与えた。それまで小型スピーカーは箱ごと鳴らすのが普通だったが、LS3/5sはほぼ密閉型。バッフルへのフェルト貼付けやネットでの音の拡散で特性をチューニングしている。もう1つの大きな影響は、AR-3のために開発されたドーム型の中高音ユニット。ドーム型の優れた指向特性はステレオ再生にうってつけだった。ちなみにAR-3の後継機、AR-3aが発売された1966年にAcoustic Resarch (AR)社は米国スピーカー市場の1/3以上の占有率を占めた。

AR-3a
   AR-3a
 
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