英国の音 LS3/5A BBCモニター
LS3/5A_1
Chartwell LS3/5A

世間でいう英国の音とは、BBCモニター系列のスピーカーを言っているようだ。BBCは英国放送協会《British Broadcasting Corporation》の頭文字をとったもの。1973年に民間放送が許可されるまで英国では唯一の放送局(長波・中波・短波・FM・TV)であり、受信料で運営される一種の国営企業だった。
BBCモニター系スピーカーのなかでもロジャース/スペンドール/KEF/ハーベス等々のメーカーが作った小型のLS3/5Aの人気が特に高い。
KEF社のユニット供給が終わり1999年末に生産が完了したが、その後もロジャース社やスターリング・ブロードキャスト社はBBCのライセンスをとって復刻モデルを製造・販売している。

LS3/5A(エルエス・スリー・ファイブ・エー)
LS3/5Aのプロトタイプが出来たのが1972年、一般に発売開始されたのは1975年だからなんと40年間ほぼ現役ということになる。お化けのようなスピーカーだ。これまで10万セットが製造され、その内ロジャースだけで4万セット製造している。
生産メーカーは年代ごとに違い非常に複雑だがBBCライセンスでLS3/5を生産したメーカーは
ロジャース - Rogers Loudspeakers Ltd.
チャートウェル - Chartwell Electro Acoustics
オーディオマスター - Audiomaster
ラム - RAM Loudspeakers
グッドマンズ - Goodmans Industries Ltd.
スペンドール - Spendor Loudspeakers
ハーベス - Harbeth Audio Ltd.
ケーイーエフ - KEF
(1999年まで 「Unofficial LS3/5A Support Site」調べ)

最近の2社の復刻版は除くが、全て同じユニット、全て同じ仕様で作られている。
<主な仕様>ユニットは共通
・ウーファ:KEF/B110 SP1003 10cm べクストレン振動板
・ツィーター:KEF/T27 SP1032 2.5cm ソフトドーム型
・クロスオーヴァー周波数:3KHz
・インピーダンス:15オーム(初期型) 11オーム(1987年以降)
・寸法:188 (W)×304 (H) ×185 (D)
当初は出荷時の製品チェックが厳重でメーカーや生産時期が違ってもステレオ・ペアーが組めるほどだったという。

LS3/5A_2

LS3/5Aは商品のモデル名ではない。単なるBBCの機材の規格名称だ。頭に付く"LS"はLoudspeakerを意味する記号。次の"3"はスタジオ外放送・屋外中継用を表す番号。ちなみに"LS5"はスタジオ用。スラッシュのあとの番号は開発番号。スタジオ外放送用途で5番目に開発されたことを表す。最後の"A"は開発後に一回の変更があった表示。最初に局内配布用でプロトタイプと同じLS3/5が20台つくられ、その後ユニットに変更があり、最終型番がLS3/5Aとなっている。
1960年代後期から、英国放送協会(BBC)は、スタジオ外からの放送のための小型のモニタースピーカーを求めていた。それまでのモニタースピーカーは中継車や、会場の一室などに設置するには大きすぎた。市販の民生機では条件にマッチするモデルはなかった。そこでBBCは自ら開発することを決めた。開発にあったったのはBBCの技術研究所(BBC Designs Department)。プロトタイプの開発にはTVの中継車での使用を想定しての設計が行われた。開発にあったっては、多少低音の再生能力に限界があっても、再生音量が制約されても、小型化が優先された。放送スタジオ用のものと違った開発ポリシーが用いられた。60年代米国を席巻していた小型スピーカーのアコースティックリサーチ社のAR-3やKLHのことは参考にしただろうが、BBCはユニットの開発を含め、全く新たに設計に取り組んだ。

【英国におけるステレオの普及とFMステレオについて】
ステレオが一般家庭に普及するのは1970年代に入ってから。一部の好事家を除いて一般家庭ではモノラルの電蓄で音楽を楽しむのが普通。ステレオ盤が広く出まわるのは1970年代半ば。それまでモノラル盤が主流だった。事情は他のヨーロッパ諸国でもあまり変わらない。ステレオ化は米国や日本より10年近く遅れている。
ビートルズの「Hey Jude」は英国においてはビートルズの活動中にはリリースされなかった。(米国・日本除く)。CDでステレオ版が収録されたのは1988年3月発売のアルバム『パスト・マスターズ Vol.2』。
ビートルズの活動中には正規なのは全てモノラル盤。ステレオ・ミックスはプロデューサーのジョージ・マーティンがエンジニアとこしらえて米国のキャピトル・レコードに送っていた。メンバーはこのミックスをほとんど聴いていなかったというのは有名な話。ステレオ録音にビートルズが本格的に興味を持ち始めたのは、8トラックのマルチレコーダーが導入された「Hey Jude」以降だという。
1973年10月、英国では法律改正によりロンドンにはじめての民放局が登場した。LBCとCapital Radioである。翌年には全国で15の民放が中波とFMで放送を始める。FMのステレオ化は搬送波の技術的問題もあり1980年代に入ってからと大幅に遅れた。若者達にとってはウオークマンでのイヤフォーンリスニングの時代と重なることになった。

LS3/5Aの開発には当時のお金で10万ポンド(現在の金額で1億円〜1億5千万円)という巨額の費用が投じられた。金に関係なく最高のものを揃えるのが国営企業のやり方と言えばそれまでだが、スタジオ用のものなら当時アルテック604EやタンノイのMonitor Goldなどの優れたユニットがあり、高品位システムを揃えることが可能であった。これに対して小型の優れた特性のスピーカー・ユニットを収めたシステムはほとんど白紙からスタートだった。近い将来のFMステレオのプログラムに対応させるため、ステレオのペアーが条件。
狭い放送ブースの調整卓の前面に、ステレオ・イメージを仮想的に配置する方法についてもBBC技研は実験を重ねた。 サウンド・ステージという疑似音響は、その後のニアフィールド・リスニングの基本になっていった。

brit_beat

最近サブシステムで古いオーラトーン5Cを引っ張りだしてきたら、かつて聴いたLS3/5A系の音を思い出してしまった。60年代なかばのブリティッシュ・ビートのコンピレーションを聴くと、高音域が上まで伸びていてというのは幻想。低音も100Hz下あたりで気持よく減衰させている。だから中音域がしっかりしていて、センターの定位がとてもよい。基本的にモノ・ミックスである。この中域重視のモニターにオーラトーン5Cがベスト・マッチする。多分LS3/5Aも同じだ。
20数年前スペンドールのLS3/5AとセレッションのCelestion3をスタジオのコントロール・ルームで聴き比べたことがある。価格が何倍も違うが寸法やサイズはほぼ同じ。どちらもパワーに弱い(音量を上げられない)、低音は出ないなどのいくつかの欠点をもっていたが、明るく歌うCelestion3に比べどうもLS3/5Aは分が悪かったように思う。LS3/5Aは中低音が多少ボンつく傾向があるが箱庭的に音がくっきり並ぶ様子は今でも鮮明に覚えている。ただし定位は抜群だが楽器の重なり具合やホールトーンなどのローレベルの情報は不得意だったような記憶がある。そのへんの表現はLS3/5Aより10年後に開発された小型スピーカー、セレッションのSL-6やSL-600で見事にクリアーされた。
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comment

過大評価されてませんか?

これは野外録音用のモニターで録音車のバンにものる小型スピーカーです、ただそれだけです。BBCは音楽用のモニターにはBC-Iを使用してました。BC-IIと民生用として後に有名になりましたが。LS3/5はBBCモニターと言う名前だけが一人歩きしてるように思いますが・・?
http://home.att.ne.jp/delta/myrobalan/bbcmonitor.html

http://www.g4dcv.co.uk/ls35a/pics/recopal/Jarticle1.html

Re: 過大評価されてませんか?

コメント有難うございます。
靴箱より一回り大きいくらいの外形、地味な2ウエイスピーカーながら当時のお金でペアーがなんと30数万円。
LS3/5がBBCモニターというだけで10万台も売れ、これほどもてはやされているのはなぜか。
日本や米国と異なる英国の政治・社会状況が様々に関係しているのは間違いありません。その辺を調べてブログの本編で書こうと思っています。日米と英国を含めた欧州のホームオーディオの違い、英国放送協会(BBC)の存在の特異性などをすこし調べてようと思っています。今しばらくお待ち下さい。
たかお

ls3/5aについて

こんばんは。過大評価されて・・・・拝見しました。
設置条件にもよるとは思いますが真空管アンプさんの評価はどのような環境でどのような機材と比較されているか興味があります。
私の環境では侮れない存在です。パワーもcdの録音状態にもよりますがクラシックではバイオリンコンチェルトでC34V~MC2600送り出しメータ読みピーク50ワットは何とか入ります。ローレベルの雰囲気も捨てがたいものがあります。アムクロン150、MC275R,MF A1を適時入れ替えてますが何もかも変わります。とても面白いSPです。11Ωバイワイヤです。

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