英国の音 セックス・ピストルズ「勝手にしやがれ」
勝手にしやがれ」

「Never Mind The Bollocks{邦題:勝手にしやがれ)」はセックス・ピストルズが1977年10月に発売した唯一のスタジオ録音アルバム。1996年から1998年に英国を吹き荒れたパンク・ロックがこれ一枚に凝縮されている。ジャケットのアートワークは今見てもかっこよさは抜群のジェイミー・リードのデザイン。
米国のニュース誌『TIME』が選んだ「時代を超えた100枚のアルバム」にマイルス・ディビスの「カインド・オブ・ブルー」やビートルズの「アビー・ロード」とともに「勝手にしやがれ」も選ばれている。歴史を作った一枚であるとともに正統派の英国の音である。

ジェイミー・リード(Jamie Reid)
1947年生まれの英国のデザイナー、脅迫文などに使われる新聞の文字の切り抜きによる作品で有名。ピストルズのロゴを含めシングル、アルバムなどの一連の作品で世界的に有名になった。特にシーン・オリバーのエリザベス女王の写真を安全ピンでコラージュした作品は英国のパンクを象徴するものとなった。
Anarchy In The UKポスター
Poster design by Jamie Reid 1976年

**「時代を超えた100枚のアルバム(All-TIME 100 Albums)」
2006年11月13日発売号のTimeの特集。同誌の評論家Josh TyrangielとAlan Lightがジャンルや年代にとらわれない、世界に影響を与えた音楽作品100枚を選んだもの。ランク(順位付け)は無く1954年以降の作品が年代ごとに並べられ、一枚ごとに説明が付けられている。

「勝手にしやがれ」の音はまさにパンク・ロックそのもの。と言うよりこのアルバムで生まれたサウンド、奏法、歌い方がパンク・ロックのお手本となり、ロックに"PUNK"のカテゴリが定着した。

クリス・トーマスとビル・プライス
Chris Thomas            Bill Price

「勝手にしやがれ」が最終的に発売されるまで、紆余曲折が様々にあった。これがセックス・ピストルズにとって幸した。録音に一流のエンジニア/プロデューサーがなんと二人も一緒につくという普通では考えられないことが起きた。一人がクリス・トーマス。当時ロキシー・ミュージックのプロデューサーとして知られていた。シングル(数枚)を録音するために呼ばれていた。
もう一人がビル・プライス。技術的に困難と噂されていたニルソンの
「ウィズアウト・ユー」のミックス・ダウンを成功させたエンジニアとして時の人だった。丁度セックス・ピストルズが使用するウェセックス・スタジオのマネージャーを務めていた。彼はアルバム用のレコーディングを担当する役割になっていた。
この二人が共にビートルズのプロデューサー、ジョージ・マーティンの門下生だったというのが面白い。クリス・トーマスはEMIのアビーロード・スタジオを基点にビートルズの「ホワイト・アルバム」、ピンク・フロイドの「狂気」のセッションなどで研鑚を積む。どちらかというと音楽家寄りプロデューサーだ。ビル・プライスはデッカ・レコードのスタジオ出身。トム・ジョーンズやエンゲルベルト・フンパーディングのレコーディングで経験を積んだ後、ジョージ・マーティン等が作った
AIRでスタジオ技術部門にリクルートされる。技術畑の経験が長いエンジニア寄りのプロデューサー。

Wessex Studios
Wessex Studios

スタジオはロンドン北部ハイベリーにあるウェセックス・スタジオが使われた。モーガン・スタジオと同じCADAC製の32chのコンソールが3M社の24トラック・レコーダとともに設置されている。教会を改造した建物なので第一スタジオは大きい。
EMIから発売された最初のシングル「アナーキー・イン・ザ・UK」はクリス・トーマスの仕事。プロデューサーのマルコム・マクラーレン(故人)からは「迫力のある音」という単純なリクエストしかない。クリスは24トラック・レコーダの能力を極限まで駆使した録音に挑む。21トラックを使ってギターを録音する。リード・ヴォーカルのジョニー・ロットンはクリス・トーマスに「ギターは21トラックをかけているのに俺のヴォーカルはなぜ一つだけなのだ。」と文句を言ったという。クリス・トーマスは時間をかけて緻密なミックスを行う。オーケストラの様にギターパートが構成されたサウンドにジョンは言葉を無くしたという。

1997年春から次のシングル「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」の録音、さらにアルバムの制作が始まる。そのさなかセックス・ピストルズに奇妙なことが起こる。ベーシストが突然解雇され、ベースを引いたことがないシド・ヴィシャス(1979年薬物の過剰摂取で死亡。享年21才)が後任となる。風貌と粗暴な行動がセックス・ピストルズにふさわしいという理由で。バンドの演奏部分の録音はドラムスのポール・クックとギターのスティーヴ・ジョーンズの二人だけで進められた。ドラムスにもギターにも沢山のトラックが使われたのはゆうまでもないが、ベース・パートは空いたまま。プロデューサーの役割を務めていたクリス・トーマスは二人に、「辞めたベーシストを呼ぶのか」と問いかける。ギターのスティーヴ・ジョーンズは黙ってスタジオのブースに戻り、ギターで曲のコードのルート(基音)のみを単音で弾き始める。まさにセックス・ピストルズのサウンド、パンク・ロックのテンポの早いロックンロール・サウンドが完成した瞬間だった。
最初のシングル「アナーキー・イン・ザ・UK」ではベーシストが入った録音だったので、ベースとドラムスとのタイミングがルーズだった。編集で別のテイクを挿入してタイトな音に直すのが大変な作業だったという。それがギタリストが単音でルートの音を弾くだけなのでメトロノームのように正確な演奏に変わってしまう。今やパンクでもグランジでもこの奏法は一般的だが必要に迫られて生まれたものだ。
ギターにもドラムスにもそしてジョニー・ロットンのヴォーカルにも沢山のトラックが割り振られ、パンクの録音には考えられない大げさなレコーディングとなった。沢山のトラックを使えばミックスに時間が掛かる。まだコンピューターとモーターで調整卓のフェーダーを動かす
Automationの技術が取り入れられる前だった。2人のエンジニアは何度もリハーサルを繰り返しながら時間をかけて一曲づつミックスを終わらせていった。

God Save The Queen
1977年5月に発売されたヴァージン・レコードからのシングル「God Save The Queen」が全英1位をかけてチャートを争ったのはロッド・スチュワートの「I Don't Want to Talk About It/The First Cut Is the Deepest」をカップリングしたシングル。ロッド・スチュワートはわずかの差で全英1位となった。後に(2001年)チャート操作があったとBBCが認め、<BBCで放送禁止曲であったが1位は「God Save The Queen」であった>と訂正した。ピストルズは放送禁止にあったり、大手のレコード・チェーン店が取扱中止したなかでの売上であり、いかに若者たちに支持されたかわかる。
解散
「勝手にしやがれ」発売から4ヶ月後、1978年1月にピストルズは米国ツアー中に解散する。わずか2年間の短いバンド生命だった。パンクはセックス・ピストルズとともに終わり、ニュー・ウェイヴと名を変えて英国から世界に広がっていく。
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「Never Mind The Bollocks{邦題:勝手にしやがれ)」はセックス・ピストルズが1977年10月に発売した唯一のスタジオ録音アルバム。1996年から1998年に英国を吹き荒れたパンク・ロックがこれ一

まとめwoネタ速neo 2012/06/28 10:22