英国の音 ビートルズ「ヘイ・ジュード」
Hey Jude at BBC

ここで「ヘイ・ジュード」のサウンドは典型的な・・・という内容の文章を書くつもりは毛頭ない。それは次回にとっておこう。
「ヘイ・ジュード」が録音された1968年夏の終わりから秋にかけては英国の音楽スタジオやアーチストを取り巻く環境に大きな変化が起きた時期。その歴史的なひとコマに触れておきたい。
EMIスタジオはビートルズの次の新作に備えて8トラック・マルチレコーダとRedd 37調整卓に代わる多チャンネル用コンソールの準備に大わらわだった。前作「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」は2台の4トラックマシーン(スチューダ J-37)を同期させて製作されたが、とてもシンクが難しくて大変なリスクを伴う録音だった。EMIのこれからがかかるビートルズにそんな危険はおかせない。自社の準備が整うまで外部の独立系スタジオ(レコード会社経営ではない)を借りて録音を進めるのはやむおえなかった。
1968年にロンドン中心部のソーホーに開設されたばかりのトライデントが、いち早く8トラックマシーンを装備したスタジオだった。ヨーロッパ全体見渡しても稼働中の8トラックマシーンはここの米国製アンペックスのAG440-8のほか1台のみだった。
ビートルズは次のシングルに決まった「ヘイ・ジュード」を初めての8トラックレコーディングで行うことに決めた。
1968年7月30日トライデント入り。アビー・ロードで録った前日までのテイクを全て破棄して、新たにリメイクを開始。ここで録られた4テイクのうち最初のテイクを基に録音が続けられる。

1968年8月6日トライデントでこの曲のリミックス作業が行われる。

1968年8月8日。アビイ・ロードにそのテープが持ち込まれてみると、トライデントで録音した後とは違い、高音がまるでない変わり果てた音になっていた。

Ampex A440-8
AMPEX AG440-8
EMIスタジオと独立系のトライデントではオープンリールのレコーダの録音規格が異なっていたことが原因だった。EMIグループやBBC(英国国営放送)は欧州規格のCCIRカーブを使い、DECCAや米国系RCA、CBSそして独立系スタジオは米国規格のNABカーブを使っていた。まだスタジオを自由に移動して録音ということが一般的でなく、さらに悪いことにCCIRとNABのことはスタジオ関係者の間でもうやむやだった。外に持ち出さない限り問題にならないからだ。
NAB規格で録ったものをCCIR規格で調整したマシーンで再生すると高域が6dB(約半分に)下がってしまう。極端に落ちていた高域をEMIのエンジニアはイコライジング処理で何とか聞ける物に修正をした。録り直しによる発売延期など最悪な状況は免れたたが、よく聴くと楽器をオフマイクで録ったかのようにチョットこもって聴こえる部分が顔を出すのはこの後遺症である。

Trident Studios
Trident Studios

同年秋にはEMIスタジオにも新しい3Mの8トラックマシーンM-23と多チャンネル用コンソールの準備が整い、「ヘイ・ジュード」の制作とともに開始された新作アルバム(「White Album」のこと )の録音がスタートする。第二スタジオでメンバーから真っ先に出た言葉が「これまでと音が違う。」だった。
Redd 37調整卓は真空管。新しいコンソールは全てトランジスタを使ったソリッドステート製。まずマルチトラックレコーダが疑われたが、疑いが晴れ、原因はコンソールとなる。EMIの技術者はコンソールの改良を続け、Redd 37の音に近づけることに成功した。この間メンバーはトライデントでの録音も並行して行う。「White Album」の8曲はトライデントでとられている。

Beckstein piano
Trident and Bechstein Grand

このスタジオには100年前につくられたドイツの名器、ベヒシュタインのハンドメイドのグランド・ピアノが置いてあり、「ヘイ・ジュード」のポールのピアノはこれで録られている。クイーンのフレディ・マーキュリーが「ボヘミアン・ラプソディ」で弾いたピアノもこれだし、エルトン・ジョンの「僕の歌は君の歌(Your Song)」にも使われたピアノもこのベヒシュタインだ。(かつてロンドンにもベヒシュタインの工場があったという。)
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まとめtyaiました【英国の音 ビートルズ「ヘイ・ジュード」】

ここで「ヘイ・ジュード」のサウンドは典型的な・・・という内容の文章を書くつもりは毛頭ない。それは次回にとっておこう。「ヘイ・ジュード」が録音された1968年夏の終わりから秋

まとめwoネタ速neo 2012/05/22 22:35