ダフト・パンク「Random Access Memories」をハイレゾで聴く
Daft Punk Pix (M)

今年のグラミー賞主要3部門を含む5部門を獲得した、ダフト・パンクの「ランダム・アクセス・メモリーズ(Random Access Mwmories)」を
HDtracksでダウンロード購入した。『なにをいまさら、エレクトロポップを、ありがたがってハイレゾで・・・?』という声が帰ってきそう。全て生音で録音というのが購入動機。いまどきポップの録音が全て生というのはありえない。しかもテクノで。
相当な覚悟と明確なコンセプトで制作されたアルバムだ。準備期間をいれると足掛け4年の歳月をかけ、100万ドル(1億円)という莫大な費用を投入して完成させた作品だという。

Daft Punk Grammy Award 2014
Daft Punk won six Grammy Awards
「RAM」をスピーカーで聴いてみた。一聴するとすごくソフトだが、ズンとくるドラムスとベースが、ウーファーを振るわせながらゆったりと出てくる。これこそがLP絶頂期のアナログ時代のリズム隊の音。ドラムスとベースの音が解け合って融合している。デジタル録音では音がなかなか解け合わず、ゴリゴリした弾力ばかり強いリズムになってしまう。
ヴォコーダーによるロボット・ヴォイスがなければ、70年代末〜80年代頭のディスコあるいはソウル、フュージョンといってもいいレトロモダンなサウンドがそこにある。
トーマとギ=マニュエルのダフト・パンクの二人が大変な労力をかけて目指した音楽とはなんだったのだろう。『Sound On Sound』の記事によると、音楽が細かいジャンルに分化する前の1900年代後期の偉大な作品をリファレンスにしたという。ピンク・フロイドの「狂気」、イーグルスの「ホテル・カルフォルニア」、フリート・ウッドマック「噂」など歴史的なレコードだ。アルバム・カバーの左上に黒の背景をバックに手書きで”Random Access Memories”とあるのは明らかにマイケル·ジャクソンの「スリラー」へのオマージュだ。

RAM_cover_artwork(S)

<アナログサウンドの探求 ー テープ・テスト>
現時点では依然CD販売がメイン。いくらアナログの音が良いと言っても、最後はどこかでデジタルにしなくてはならない。2インチ・テープを使うマルチトラックのレコーダーも現役だが、チャンネル数は16ch又は24chと限られており、いつでも自由に使えるわけではない。マルチ録音はDAW。主にPro Toolsでというのが業界標準となっている。
「RAM」プロジェクトの実質開始は2008年。トーマとギ=マニュエルの二人はLAのヘンソン・スタジオ(旧A&Mスタジオ)に長期間籠り、次回作の楽曲スケッチをアナログのマルチレコーダーとPro Toolsの双方を使用して録音。様々なチェックを繰り返した。最も時間をさいたのはアナログのマルチの音をPro Toolsへ移転するときのサウンドの変化。音量レベルを様々に変え、音にどのような変化が現れるか調べることもその一つだった。マルチに使うノイズリダクションのドルビーSRがテープヒスの低減だけでなく、アナログ特有のふくよかな低域に関係する事を確認したことも成果だった。アシストしたのは彼等の「Alive 2007」でエンジニアを務めたピーター・フランコ(Peter Franco)。ピーターは「Alive 2007」でグラミー「ベスト・エンジニア・アルバム」を受賞している。

Daft Punk Recording pix_03
Peter Franco (L) Mick Guzauski(R)at Henson Studios

<レコーディング>
トーマとギ=マニュエルの長年の望みは、70年代末〜80年代初頭の録音スタイルで、アナログサウンドを自分達の録音で再現することだった。超一流のスタジオを心行くまで使い、トップクラスのスタジオ・ミュージシャンを惜しみなく起用する。これが当時のスタイル。正にバブリーな絶頂期のもの。ー 1億円は平気でかかるよなぁ。
録音場所はLAになる。前出のヘンソン・スタジオもその一つ。ミュージシャンの生セッションを録るためにNYから呼ばれたのは、ミック・グゾウスキー (Mick Guzauski)。マライヤ・キャリーを筆頭にマイケルもマドンナもEW&Fもクインシーもプリンスも録っているベテラン。映画『トロン: レガシー』のサウンドトラックアルバム制作(2010年)で二人のプロジェクト加わった、キーボードのクリス・キャスウェルが推薦した。二人はその場でミックの経歴をググって即決したと言う。

Conway Studio C
Conway Studio C Liveroom
本格的な録音はLAのコンウエイ・スタジオCでスタートした。英ニーブ社のNeve88R調整卓を売りにした超一流の”箱”だ。リズム録りがここで行われる。Pro Toolsに入れた曲のスケッチを元に、リズム隊の生セッションが続けられる。リズム録りに参加したのはナイルロジャース(g)を始めとしてポール・ジャクソンジュニア(g)、ネイザン・イースト(b)、ジェームス・ジナス(b)、ジョン・ロビンソン(ds)、オマー・ハキム(ds)など超一流のメンバー。キーボードには前出のクリス・キャスウェルが加わった。譜面を使わないセッション形式のため長時間が費やされた。このスタジオはベーシックトラックの録音だけでなくミックスダウンでも使われた。
最初の23トラックはアナログマルチとPro Toolsの双方に同時録音された。Pro Tools HDXが使われ、サンプリング・レートは96kHz/24bitに設定された。最終的にアナログ調整卓Neve88Rに合わせ、I/Oチャンネルは72chとなった。アナログ録音はスチューダーA827が24トラックで38cm/secの回転速度で使われた。デジタル変換にはLynx Aurora A-D converterが使われた。ダフト・パンクの二人の好みの音だという。

Lynx Aurora ADC
Lynx Aurora A-D Converter

<ミックスダウン>
Noコンプレーサー、No イコライザー、Noプロセッサーが二人のポリシー。Pro Toolsのプラグインのフロセッサー類は全て排除された。最小限の音の加工にはNeve88R調整卓に接続された外部機器を使って行われた。一聴するとソフトタッチの音はEQで加工されたものでなく、録りにきわめて近い音なのだ。正にハイレゾのための理想の世界が繰り広げられたのだ。

<複数のマスター>
ミックスダウン後のステレオマスターはアナログで3種類作られた。いずれも米国アンペックス社のAmpex102レコーダーが使われた。アナログ 1/2インチのテープを使い 1) 38cm/sec回転(ノーマルヘッド) 2) 76cm/sec回転(ノーマルヘッド) 3) 76cm/sec回転(Fluxヘッド)。測定の結果も、モニターの結果も違いはごく僅か。シングル曲のいくつかは 1)のテープサチュレーション(高音量レベルの飽和)が気持ちいいかどうか程度の違い。メンバーの希望で最終的に 2) と同じ構成でサチュレーションレベルを調整した 4) が作られ、マスタリングに回され、アルバムに使われた。なんとマニアックなこと!
4種類のマスターは試聴とアーカイブの目的で8トラックのSonoma DSDレコーダーに録音された。今回ハイレゾで配信された88.2kHz/24bitの音源はこのDSDマスターが使われたと思われる。

Daft Punk pix_006

(この記事は『Daft Punk』[Sound On Sound]と『Icons: Mick Guzauski on Engineering and Mixing Daft Punk’s “Random Access Memories”』[sonicscoop] を参考にして書かれた。) 
 

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